識字障害とは?
発達障害の一つです。識字障害の名前のとおり、「文字を認識するのが苦手な障害」です。文字の認識が苦手で「読めない」ので「書けない」こともあります。そんなわけ様々な別名があります。書く方が苦手な場合には「書字障害」と言われますが、合わせて識字障害とされたりしています。
- 失読症
- 難読省
- 読み書き障害
- ディスレクシア
などと言われます。
識字障害の症状はどんなもの?
- 文字がちゃんと見えない
- 文字は見えても、頭の中で音にできない(文字から音が連想できない)
大きくこの2つが絡まって「文字を読めない」という症状になってしまいます。
識字障害の人の文字の見え方の特徴
- 文字が左右反転して見える。
「粉」という漢字であれば、左に「分」が、右に「米」があるように見えてしまう。 - 文字がグルグルと渦を巻いているように見える
- 一直線に書いてあるのに、バラバラに散らばっているように見える。
- 文字がにじんで見える
- 文章を読むのが極端に遅い
画像で見た方が早いですね。
ただ、見え方は人によって様々です。
- 本を読んでいるはずなのに壁に文字がぶつかって破裂する
- 滝の中を文字が流れ落ちていく
- 文字が踊る
体験談のようなものを見ると「なにをいっているんだ」状態なくらい意味がわかりませんでした。
識字障害の人の文章の読み方の特徴
「識字障害の人は文字が見えづらいのか。大変だな。」と思っていたのですが、見え方に加えて、やっと見えても読むのが苦手な人も多いようです。
せっかく読めても、文字を音にできないのです。
- 「もじ」と見えていても「モジ」という音が出てこない
- 「モジ」という音を聞いて「もじ」という字も出てこない
識字障害ではない人にとっては意味がよくわからないでしょうが、ひらがなを覚えたての幼児をイメージするとわかりやすいかも。こんな感じです。
幼児は
- 文字を見る
- 記憶を辿る
- 音を思い出す
- 声に出す
としています。
慣れると
- 文字を見る
- 声に出す
となります。
識字障害だと、これが上手くいきません。1~4まで全部をゆっくり進む感じ。
ブツブツと途切れる。読むべき場所の認識も苦手
- 「カメラ」のように続けて文字を読むのが苦手で「カ・メ・ラ」のように読んでしまう。(逐次:ちくじ読みをする)
- 「か」と「が」、「ば」と「ぱ」、「つ」と「っ」など細かい違いがわからない
- 「おかあさん」の「かあ」や「おとうさん」の「とう」などを母音が「ok"aa"sann」と二重に重なるものの認識が難しい
- 「は」や「わ」の区別がつかず、「あれはワニ」というようなものだと「あれわわに」のように判断がつかない
- 「ね」「ぬ」「め」など似ている文字の判別が難しい
- 漢字の画数が多い文字を間違える
- 文章内の正しいところで文節を区切ることができない。
上記の文章であれば「文章・内・の正し・いとこ・ろで・文・節を・区切るこ・とが・で・きない。」というように途切れながら読むことになります。 - 文章を読むときに、手で指さしたりペンでなぞったりしないと読めない
文字を読むことに対して苦手意識が強く、体力を非常に使う
- 文章を読もうとするとものすごく疲れため、読み進めるごとに間違えが増えてしまう。
- 書いてある内容をそのまま読めず、勝手に変えて読んでしまう。
「私は識字障害で困っています」を「私が識字障害で困っていました」のように微妙に読めない。 - 文字ごとの間が詰まっていたり、行間が狭いと読めない。
- 文字がたくさんあるとそれだけで疲れる。(易疲労性)
- 音読(声に出して読む)のが苦手だし、黙読(声に出さず読む)も難しい。
- 学校などでは黒板を見ても理解ができない
- 過去に読んだことがある内容であれば、次はもう少しちゃんと読める。
識字障害の人の書き方の特徴・文字の特徴
- お手本を見て真似して書くのが苦手
- □などのマスの中に文字がおさまるように書けずはみ出す
- 耳で聞いた内容を書き写す事ができない
識字障害は言語によって発症率が異なる
興味深いのが、識字障害の発症率が国によって異なる点です。診察できる医者が少ないから?と思ってしまいそうですが、違います。音と文字のつながりの種類やパターンが多い言語ほど、識字障害の発症率が高い傾向にあります。
「文字が見えない」ことが現象の方でなく、「上手く音と結びつかない」という現象の方です。
例えば英語は識字障害の発症率が高い言語です。
なぜ英語は識字障害率が高いのか
英語は発音がややこしいのです。識字障害の人は音の聞き分け(音韻処理)能力が通常よりも低いため、音⇒文字への変換が難しいです。
pancake call
これって発音をカタカナで書くと「パンケイク コール」みたいな発音になります。※「パンケイクコールってなんだよ?」と思っても無視してください。
「pancake call」単語内には「a」が3つありますよね。文字は同じ「a」なのに「エ」みたいな「ア」、「エイ」、「オ」とバラバラ。
まったく別の単語でlough ⇒ 「ラフ」は字面は「ou」なのに読み方「apple」の「a」と同じ「ア」発音になってしまうし。
aiueoは日本語なら「あいうえお」の読みでおしまいです。が、英語だと「a」だけで「ア」やら「エイ」やら「オ」やらある。
さらに子音も組み合わせパターンが盛りだくさん。
私達が第2言語として英語を習ったときも分かりづらいなと思った人もいたのでは。
文字と発音の関係が単純なほど識字障害は起こりづらい
アルファベット系=識字障害率が高いのか?と思いきや、言語によって異なります。文字と発音が規則的で単純であればあるほど、識字障害の率は下がるとされています。
識字障害の発症率が低い言語
- イタリア語
- スペイン語
- ドイツ語
- ポーランド語
- ブルガリア語
などは識字障害の率が低いとされています。
識字障害の発生率が高い言語
- 英語
- フランス語
この2つは表記と発音のパターンが複雑なため、識字障害の率は高い傾向にあります。
各言語の識字障害の発生具合
識字障害が発生しやすい率は、資料によってマチマチですが、ざっくりと並べてみるとこんなふう。
- 英語・フランス語・・・10~15%くらい(アルファベッドで発音多すぎ)
- 日本語・・・英語よりマシだけど、イタリア系よりは発症しやすい
- イタリア語・スペイン語・ドイツ語・・・カンタン。アルファベッド系で発音の種類も少ない
- ポーランド語等・・・なぞ
こんな感じ。ポーランド語については論文資料を読むと「識字障害は生じづらいカンタンな言語」的なことを言っていましたが、ポーランド国内での調査では「識字障害?ほぼ皆無!」と言っているとかで、単純に症状の認知度がないのでは?とも感じていますが参考程度に。
同じ日本語なのに、識字障害の発症率は、漢字>カタカナ>ひらがな
小学生に対しての調査によれば、ひらがな、カタカナ、漢字に関してのそれぞれの発生率は次のとおりとなっています。
- ひらがな:1%前後
- カタカナ:2%前後
- 漢字:6~8%程度
つまり日本語でも、ひらがなだと大丈夫でも漢字だとダメという事態が起こります。
カタカナ、ひらがなは50音+α程度です。
漢字は小学校で習う漢字だけで約1,000字も種類があります。漢字の場合には、前後にくっついてる漢字で変わりますしね。「前」の読み方が、「マエ」だったり「ゼン」だったりするように。文字に対して発音の種類が多い、つまり識字障害が起きやすいわけです。
漢字というわけで中国を連想しますが、漢字が盛りだくさんですが識字障害率は7%ほどだそうです。
多言語を操るバイリンガル教育で識字障害が発覚することも
日本語だとまあまあ読めても、英語になるとディスレクシア的症状が現れる場合もあります。そのため、バイリンガルやトリリンガルの教育を子どもにしようとしたら、日本語は大丈夫なのに英語はディスレクシア的な症状が現れて一般以下の能力とされる、なんてことが起きます。
もしも別の言語に鞍替えしても・・・
「識字障害でつらい・・・せや!識字障害が起きにくい言語に変えたろ!」
というわけで、日本語の識字障害で悩んだ人が、イタリア語のような言語に鞍替えしたら読めるようになるのか。読めるようになるとは言い切れません。
そもそも、漢字のような象形文字タイプと、アルファベットとでは、脳が別々の場所で処理するようにできているそうです。そして、脳内で文字認識の経路が「あ、こいつは漢字タイプの言語か」となると、その後の人生も「こいつは漢字タイプやし」というわけで、アルファベット系の文字をみても、漢字処理のための脳を使う傾向があるためです。
- 脳の漢字認識機能「エラー。漢字が読めません。」
- 意味が認識できません。
脳が何度もこの処理を繰り返していると、漢字以外、アルファベットを読むときにも同じ思考回路を通過してしまう、と。
なんてこったい。目を覚ませ!!と言いたくなりますが、そういう傾向は強いようです。人間、使わなくなった能力のシナプスは消えて消滅しますからね。
識字障害の原因は?
識字障害の原因は、脳の機能障害です。
識字障害の人はこんな風に脳内で情報を処理している
もう少し詳しく解説すると、頭の中では次の順番で処理しています。
文字を音と結びつける
- 文字を見る
- 音としてイメージする
これと
- 音を聞く
- 文字をイメージする
これが、1文字を認識する段階。
識字障害の人の場合には、ひらがなそれぞれの読み方が曖昧です。「あ」を「あ」であったり英語でいう「apple」のような「あ」にしてみたり、はたまた「う」のように読んだり。正しく読めるとしても、非常に時間がかかります。
通常であればスラスラと読めるはずですが、時間がかかりすぎて曖昧なままで適当に読む。周囲の人がなんの困難もなくスラスラと読めば焦りますよね。それを見て早く読むことを優先してしまい、正しく読むことをおろそかにし、さらに周囲との差が開くという悪循環に陥ります。
文字を見て、意味と読み方を結びつける
ひらがなが並んだ状態を見て、それを脳内で意味や読み方を判断します。
- 複数の文字が並んでいるのを見る
- 意味・読み方を瞬時に認識する
「おかしをたべる」とあれば「お」「か」「し」が並んでいることで「お菓子」をイメージし、「た」「べ」「る」が並んでいることで「食べる」ことをイメージします。
これはひらがなを覚えたての子をイメージするとわかりやすいかも。
意識せずとも文字が読めて意味もわかる
次の段階です。ひらがなを覚えたての子どもを観察していると、文字の並びをみて意味を把握して喜んでいます。定型発達の人でも文字を一つ一つ細かく読んでいることはなく、文字の並びをみて適当に判別しています。
下記の文章を見てみましょう。
こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。
この ぶんょしう は いりぎす の ケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか
にんんげ は もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば
じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて
わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす。
どでうす? ちんゃと よゃちめう でしょ?
ちんゃと よためら はのんう よしろく
よーく見ると1文字ずつ読むと意味が分からない文章になっていますが、単語のまとまりとしてザッと読むと意味がわかってきます。これは単語のまとまりで、意味を記憶しているからです。
識字障害の場合、文字の並び=単語として認識するのが苦手です。
識字障害の判別方法
国立成育医療センターによれば以下の方法での判別を指示しており「すべてに当てはまる」場合に診察の対象となります。
□ 平仮名の音読に困難があり、努力したがあまり改善しない
□ 本人に音読が苦手という自覚がある
□ 本人も改善したいと願っている
□ 本人が受診を納得している
□ 1年以内に詳しい知能検査を受けていて、知的な遅れはない
□ その検査結果を持参できる
□ 医療機関(できれば教育機関から詳しい情報も)の紹介状がある
症状としては
□ 平仮名の音読に困難があり、努力したがあまり改善しない
□ 本人に音読が苦手という自覚がある
□ 1年以内に詳しい知能検査を受けていて、知的な遅れはない
以上の3つが当てはまりますね。
知能検査を受ける必要があるため、自宅での判別は不可能ですね。
もしも「自分が識字障害かも」「子どもが・・・」と思うのであれば正しく診断を受けるところから始めましょう。
参考にさせていただいたサイト等
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